光学制御における反射と屈折

光は、遮るものがなければ直進しますが、光の通り道に密度の違う部分があると折れ曲がる性質を持っています。夏の暑い日にアスファルトの上が歪んで見えるのは、温度の上昇によって空気の密度が変わり、光が屈折することで起こる現象です。その性質を利用しているのが、レンズを用いた屈折の光学系です。レンズに出入りする光の入射角と出射角によって、自由に屈折角度を調整し光を曲げることが可能です。一方、リフレクターは光沢面を用いて直進してきた光を反射させることで角度を変えます。このように「屈折」と「反射」という光学系の性質を利用して「配光」*1を作ります。

  • 配光とは、届けるべき場所に必要な光を適切に配ること。

図1 ヘッドランプ光源ユニットの反射と屈折イメージ

ヘッドランプ光源ユニットと屈折イメージ

自動車ランプで培った配光技術の活用

自動車ヘッドランプでは、設計上でシミュレーションを行い、適切な部材を使用することで光を自在にコントロールしています。配光技術においては、ニーズや用途に合わせて最適な部材の種類・サイズを組み合わせて光を作ることができるのがスタンレー電気の強みと言えます。
近年のヘッドランプ技術の一つとして、ADB(Adaptive Driving Beam)の開発が急速に進んでいます。ADBは、歩行者や先行車のドライバーに対して光を制御し、必要なところに必要な光をコントロールして照射する技術で、これにより相手が眩しく感じる等の迷惑をかけず、運転者は常時ハイビームでの走行が可能になります。また、スタンレー電気は屋外照明や街路灯も扱っていますが、この分野においても「光害」(照明の設置方法や配光が不適切で、景観や周辺環境への配慮が不十分なために起こるさまざまな影響)が問題視されてきており、光を自在にコントロールし、必要とされる場所のみに最適に配光するという技術は活かされています。

深紫外線製品の配光技術

配光技術は、深紫外線製品の開発にも活かされています。紫外線は細菌やウイルスを除菌できると同時に、人体にも悪影響をもたらす可能性のある光です。また、街路灯などの可視光線と違い、紫外線の光は人間の目には見えないため、人間が意識して避けることができません。スタンレー電気は配光を最適化する技術で深紫外線の照射を自在にコントロールし、深紫外線光源の安全な活用を実現します。
その技術を深紫外線製品の一つ「深紫外LEDリアクター」で説明します。深紫外線製品の配光技術で自動車ランプ製品と大きく異なる点は、紫外線により樹脂が劣化してしまうため、樹脂レンズを使用できないことです。そのため、深紫外線製品における照射の制御にはリフレクター技術が重要になります。
例えば、深紫外LEDリアクター内部のLEDモジュールには多数のLEDを装備していますが、LEDのみの場合、LED光線が広範囲に拡散してしまい、照射を制御できません。そこで、多数のLEDに合わせてリフレクターを最適配置することで、一つ一つのLEDの配光を制御し、配管内に流れてきた水などに対して深紫外線を均等に照射、除菌できる仕組みとなっています【図2参照】。

図2 深紫外LEDリアクターの光学構造

深紫外LEDリアクターの光学構造

図3 深紫外LEDリアクター照射面

深紫外LEDリアクター照射面

光源からモジュール、完成品まで一貫した設計生産体制

上記に記した「熱マネジメント」「光学設計」に加え、光源の形状やサイズ、特性なども配光に影響を与えるため、製品特性に合わせて光源からモジュール、完成品まで自社で検証しながら一貫して設計・生産できることは、私たちスタンレー電気の強みであり、今後もアドバンテージになると考えています。また、明るい光を作る繊細な色度コントロールや光の変換効率向上の技術についても注力しており、地球環境という面でもCO2や消費電力の削減などに貢献していきます。自動車ヘッドランプで培った技術力と豊富な経験値、そして一貫した設計生産体制を活かし、スタンレー電気はこれからも光の技術革新を推進し、社会に役立つ新たな光を生み出していきます。

照射シミュレーション

スタンレー電気では、お客様の流水条件により、リアクターの最適化(サイズ・光源の種類・数量等)やリアクター内の水の整流化を行い、効率的に光を当てて除菌効果を高めるため、シミュレーションを行います。
また、リアクターの省エネ・長寿命化のため、効率を重視した除菌駆動条件をご提案します。

  • 整流機構を用いて水の速度を抑え流速の均一化を実現

    水の流れ
    水流が整流化されている。(ベクトルの向きと色)
  • 自動車ランプで培った配光技術で深紫外光を効果的に照射

    光の配光
    リフレクタを除いてLEDの光が管壁に当たらないように配光。(光強度の分布)

除菌効果

除菌の対象となる菌・ウイルスの種類により、必要な照射量は異なります。例えば「大腸菌」ファージT1の99.9%除菌時に必要な照射量は12.9mJ/㎠です(当社実験結果による)。

図6 99.9%除菌時の必要照射量

流量が多くなるほど必要なリアクター内の光源数(LED)は多くなります。流量2Lの場合、LED2個以上のリアクターであれば必要な照射量12.9mJ/㎠を得ることができます(★1)。流量6Lの場合は、LED4個以上のリアクターが必要です(★2)。

図7 光源数量別の性能表