社長メッセージ
光技術で安全安心に貢献していく
I.光の価値、強みと事業機会
事業環境認識
当社の中核である自動車機器事業が対峙する自動車市場は、CASE※という言葉に代表される百年に一度の大変革期と言われて久しくなります。この目まぐるしく変化する事業環境の中でも、特に、ガソリン車(ICE)から電動車(EV)への移行と、自動運転でより安全安心な車を目指していく、この2つの流れとそれに伴うニーズは、どちらも途絶えず日々変化しています。自動車部品サプライヤーの位置づけも、これまでは長期にわたって、カーメーカーの要求に基づいて製品を供給する役割から、自動車部品サプライヤー自らが、自動車の安全安心と進化に対して製品をどうフィットさせていくかを考え提案する時代になってきました。
当社はこれまで、光の持つさまざまな特性を究めて、数多くの価値ある製品を提供してきました。「自動車が動けば光が動く」といったように、光はさまざまな領域で活用されてきましたが、その時代もまた大きく変わりつつあります。求められる価値やニーズが、年々変化し、定まらない中で、変化するニーズにアジャイルな形で合わせて製品をフィットさせていく。そうしたことが、ニューノーマルになってきたと感じます。また、例えばインテリアは、欧米や日本などの自動車先進国ではシックな車室内が求められる一方で、中国やインドではエンターテインメント性が重視されるなど、光に対する価値観も多様化しています。
車載ランプの競合環境も近年大きく変化しています。ランプは重要保安部品であることに加え、大規模な設備投資も必要となることから参入障壁が高く、国内の主要なサプライヤーは当社を含め3社しかありません。ところが、技術的にも遜色のない新興ランプサプライヤーが中国で200社以上台頭し、グローバル市場でしのぎを削ろうとしており、ランプサプライヤーは今、グローバル市場で淘汰の時期に差し掛かっています。コスト競争力がありながらも技術力と革新性のある高品質な製品をスピーディに提供できることが勝負の分かれ目であり、製造現場と開発現場が同期していることが求められるマーケットになってきています。
- 「Connected:コネクテッド」「Autonomous:自動運転」「Shared & Service:シェアリング・サービス」「Electric:電動化」の頭文字
強みと事業機会
当社の強みのひとつは、光源から製品まで一貫して開発・製造できることです。しかし、シミュレーション技術やAIの進化などを背景に、誰もが光源を電子部品として扱いやすくなってきた中で、誰もが使える光をどう使うのか、価値創造に向けた発想力などのインテリジェンスが今後はポイントになります。当社は長年培ってきた人間工学と光学技術を融合させたインテリジェンスの領域で差別化を図ることができるのが大きな強みです。
どのように光らせれば、より安全安心になるのか。どのような光り方なら、人間が受け入れやすいのか。目に見える光に限らず、見えない光でも、それをソフトウェアやハードウェアの一部としてどう活用するかで、社会課題を解決できます。
例えば私が自動車に乗ると、「貝住さん、こんにちは」と自動車が自動認識します。それは、車体のカメラに、赤外線を発する当社のLEDが有効に使われているからです。もしそこで、自動車の鍵を盗まれても、自動車側で顔認証をし、鍵を開けた人と所有者とが異なればエンジンがかからない、或いはパスワードを求めるという仕組みになれば、自動車のセキュリティはさらに担保されるでしょう。プロダクトは変わらなくても、インテリジェンスによって光の使われ方が変われば、そこには、これまでとは全く違う世界が生まれる。こうした人間主体の観点で、製品の中での光の新たな活用方法を生み出せるのは、当社の大きな武器です。
強みを活かしたプロダクトを早期に製品化し、世の中に提供していくことが求められる中で、新たなプロダクトの市場投入にあたっては、「うちを実験場に使ってくれていい」と明確におっしゃる取引先が、中国やインドにあります。短期間でトライ&エラーを繰り返しながら、より優れた製品を巨大マーケットに出せる。そうした環境も当社には整っています。このアジア市場には当社の大きな成長余地があります。
これは米州も同様です。カナダ、メキシコ、さらには南米も含む米州では、新しいタイプの自動車に対する渇望が強くあります。特に当社は、南米市場に積極的に投資しています。ブラジルのAngstrom Electric社(現Stanley-Angstrom Electric da Amazonia Ltda., 以下SEA)を2024年10月に買収し、当社は南米で開発から製造まで一貫して行えるようになりました。米州の四輪市場で、確固たる製品提供の準備を進めると同時に、二輪市場に対しても、開発スピードの速さを武器に拡大を図ります。
II.中期の方向性
グローバルでスピードのある挑戦
2022年4月に社長に就任後、これまでの経営から大きく変えたのが、グローバル市場で戦うための「One Stanley」の推進です。当社はそれまで、まずは日本でプロダクトを開発し、その後、世界に展開していくアプローチでした。
それぞれの市場がそれぞれで成長し、市場ニーズも決して画一的ではありません。日本の何倍も製品が売れる市場が世界にはあります。この事実に真正面に向き合い、日本と海外におけるグループ会社の関係性を同じ状態にしたい。この想いから「日本から」だけでなく「グローバルで同時」に価値を提供する『「One Stanley」でスピード感ある挑戦』を第Ⅷ期中計のテーマの一つに掲げました。開発や製造に限らず、経理システムもグローバルで同一の考え方、スピードで決算をする体制へと変革しています。
この「One Stanley」の推進は、非常に大きな成果を生み出しつつあります。例えば、CAE※シミュレーション技術においては、ある部分では米国が、また別の部分ではタイが、世界の最先端をリードしています。日本はグループを統括する形で、CAEに関するグローバル投資戦略の議論が、米国とタイの現地技術者主導で進んでいます。
入社以来、米国、ドイツ、インド、タイなど、海外での仕事が長かった私は、世界には多くの優秀な人材がいることを肌で感じてきました。米国の工場長も、かつては本社から日本人を派遣していましたが、今は2工場とも米国人が務めており、同じことはタイでも起きつつあります。現地のマーケットや商習慣に精通した優秀な現地人材を登用し、切磋琢磨させながら、組織の中でチャンスを与えていく。それが、「One Stanley」をより強固にし、多様化するニーズによりスピーディに対応した事業展開を可能にします。
- Computer Aided Engineering コンピュータ支援工学

自動車機器事業の中期の方向性
今、自動車市場では、ADAS※を中心とした安全性と電動化の2つの領域での統廃合が一気に進んでおり、ランプシステムは大変革期に直面しています。もちろん、ランプだけではなく、カメラ、センサー、ブレーキ、シャーシ、エネルギーマネジメントなど、自動車 を動かすシステム上で相互に関係性を保ちながら、それぞれの機能を成り立たせている各製品・機能も同じです。
自動車そのものが大きく変容する中で、カーメーカーにとっては、メインボードにランプの仕様設計をすべて一任し、要求されたとおりの製品を作るランプサプライヤーに徹することもひとつの選択肢です。しかし当社は自動車全体のシステムにコンフリクトを生じさせない形で、インテリジェンスを持った、安全安心につながる製品を自ら開発・提供する企業の道を選択しました。その理由はシンプルで、当社はランプを供給する会社ではなく、安全安心な製品を供給する会社だからです。運転する人や交通参加者に、どのように安全安心な状況を担保できるかを考える側にいたい。そのために足りないノウハウがあれば、社外のパートナーとも手を結びながらそれを準備し、実行できるような状態にしたい。こうした考えを具現化したひとつの手段が、三菱電機モビリティ様との合弁会社の設立です。
ランプはまだまだ進化の過程にあります。昨今、突然、集中豪雨に遭うことも増えていますが、現状、自動運転は、非常に水に弱いミリ波を中心に動かしています。そのため、たくさん雨が降ると、反射した水の粒がミリ波を阻害し、自動運転ができなくなります。ランプは重要保安部品ですが、保安基準が晴天時を前提条件にしており、降雨・降雪などの荒天時の定めがありません。雨のときに前が見えにくくなるのに、私たちのランプは助けになっていないのではないか。交通参加者の安全安心ニーズはもっと満たすことができる。そうした想いで、ランプの開発を進めています。
二輪も同様です。二輪車では昔から、車体を傾けてコーナーを曲がろうとすると、ランプの光が手前に落ちてしまい、ライダーが最も見たいコーナーの先が見えないという課題がありました。当社と同じ課題認識を持っていたヤマハ発動機様とは約4年前から、さまざまなテストモデルをつくってきました。そうして生まれたのが、車体の傾きに応じて配光パターンを自動調整する世界初の二輪ADBです。この二輪ADBを量産し、広範囲を光らせて視認性を向上させることで、交通死亡事故ゼロに向けて貢献していきます。
二輪車用ランプに関しては、当社はグローバルでトップシェアであり、今後もさらに取り組みを強化していきます。二輪車用の電球の供給で創業した当社は、常に二輪市場に近い存在で、二輪に強い本田技研工業様との取引を契機にグローバル市場に打って出た歴史があります。これまでお客さまがアジアを中心に海外進出する際、迅速かつ安定的にランプを供給するため、お客さまの工場の近くに当社工場を建設し、二輪市場のシェア獲得につながりました。南米ではAngstrom Electric社(現SEA)の買収で二輪ビジネス基盤の確立を目指し、開発拠点とメーカーとのリレーションを活かした売上拡大を図ります。またインドでは、Lumax Indutries社(Lumax)との関係強化を通じて、ソフト領域まで含めた開発から生産までを、現地で一気通貫に行う体制を構築し、現地の日系およびインド系メーカー向けの受注拡大をねらいます。
ロボティクスも活用することで、今は以前ほど大規模な工場建設は必要ありません。適切な投資で、お得意先の近くで素早く製品を供給できる体制を構築することが重要です。現地開発・拡販体制を強化し、最新技術で二輪の安全安心を牽引して市場を形成することで、二輪事業の売上高を、2024年度の999億円から2028年度には1,500億円の到達を目指します。
- Advanced Driver-Assistance Systems 先進運転支援システム
電子事業の中期の方向性
電子事業の中核をなしているのが光源の研究開発です。例えば、LEDはもはや当たり前の光源ですが、コントロール次第では、さらに進化できます。LEDは消費電力が少ないことからエコだと言われますが、球型に出てくる光のうち、有効に使われているのは半分以下で、その光がすべて使われているわけではないのです。もしこのLEDの光をすべて使い切れれば、真の意味での省エネが始まり、新たなゲームチェンジにつながります。光の利用効率を追求した光学設計を強みにエネルギー問題の解決に貢献していきます。
また、エクステリアからインテリアまでのトータルコーディネートで、人と自動車の新たなコミュニケーションを実現したり、コネクテッド・スマート道路灯で、まちづくりの未来を共創することで、すべての交通参加者の安全安心と快適の実現も図ります。ほかにも、高度センシング技術で、ロボット化を加速すれば労働力不足の解消につながります。新車の安全性能を評価するNCAP※1に応えるセンシングなどで、高齢者を交通事故の被害者にも加害者にもさせない社会づくりに貢献することも可能になります。
光源の研究開発では今後、どういう光源を創造し、提供していくかが非常に重要です。現在、京都大学様や日亜化学工業様と共に共同開発を進めている新光源の領域に力を入れています。その領域である青色GaN系フォトニック結晶レーザー※2も、量子計算技術を活用することで、10年前までは1日1万回が限界だったのが今では日に14兆回計算できるよう進化してきています。
こうした新しい光源への投資は、惜しまずに実行していかなければならず、私が社長の間は、新たな光源に関する投資を続けていく考えです。そのリターンを得られるのは、中期よりもっと先かもしれません。しかし、緩めることなく研究開発を続け、究極的には立体映像で映画を見るような世界を実現したいと考えています。
- New Car Assessment Program
- Photonic Crystal Surface Emitting laser
Ⅲ.長期の方向性
長期的な企業価値向上に向けて
企業価値について考えると、これまで「利益」という財務価値を非常に重視してきました。これからも財務価値の重要性は変わりませんが、企業価値を高めるためには非財務価値も向上させる必要性があると認識しています。財務価値と非財務価値の両方を向上させ、企業価値を高めることは、経営者である私の責任かつ役割です。そのために、経営戦略の強化、財務の健全化、ESGやサステナビリティ対応、人材・組織力の強化、デジタルイノベーション、ブランド価値の向上に取り組んでいますが、特に人材やサステナビリティなどの非財務価値は、長期的な取り組みが不可欠です。
昨年、人材方針として「“自発”挑戦型人材」を掲げました。これまでの経験からも、「世界でナンバーワンのものに打って出よう」という強い気概を持った人が世界にはたくさんいると感じていますし、すでに相当数の「“自発”挑戦型人材」が活躍する姿が海外を中心に見られます。課題があると感じているのは日本です。保守的な考え方が、特に組織の上層部に多い気がしていますが、若手の中には「“自発”挑戦型人材」が多く育っていくポテンシャルも感じます。優秀な人材を確保するには、会社としても、働く場としての魅力を磨く必要があり、そこはハードとソフトの両面で改善施策を打っています。
サステナビリティに関しては、現在、マテリアリティの再特定を進めています。非財務を含めた企業価値を見直し、あらためてマテリアリティを特定し、社員全員がより意識を高め、共有できるものにする必要があると考えたからです。
これまで財務価値に偏った考えがありましたが、今では、投資判断の議論の際に環境価値も考慮するなど、バランスを重視するように意識が変わってきました。グループ内にサステナビリティの考え方が浸透するにはまだ少し時間がかかるかもしれません。しかし、大きく事業成長をしていくためにも、このマテリアリティの再特定を通じて、あらためて全社員のサステナビリティ意識の向上に注力していく考えです。
ステークホルダーの皆さまに向けて
当社は、ROEを経営の最重要目標のひとつとして掲げており、2028年度ROE目標10%達成に向け、収益性と資産効率性の向上に取り組んでいます。一方で、光の企業として、飛躍的な成長のため新たな光源を創造することにもこだわり、収益性と資産効率性の向上に取り組みながら、投資を緩めずに実行していきます。
ステークホルダーの皆さまには、中長期の飛躍的な成長にご期待いただきながら、引き続きご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
スタンレー電気株式会社
代表取締役社長
